こんにちは。あおいメンタルクリニック院長の花岡です。
時の流れは早いもので開院して半年を過ぎました。周囲の方々の助けを借りながらも、やっとクリニック運営にもなれてきているところです。
クリニックに相談にいらっしゃる方で比較的多い病状としては、「不安障害」があります。本日はこの「不安障害」についてお話したいと思います。
突然、心臓がドキドキして、息ができないような感覚に襲われ、「このまま死んでしまうのではないか」と強い不安にかられて、救急車を呼びたくなった、なんて人の話をきいたことはないですか?
それは「不安障害」のひとつ、パニック障害と呼ばれる病気のサインかもしれません。
パニック障害とは?―「脳の誤作動」による病気

パニック障害は、前触れもなく「強い不安発作(パニック発作)」が繰り返し起こる病気です。身体的にはとても強い反応が出るので、救急外来を受診する方が多いのですが、受診して検査をしても、身体に異常は見つからない、と言われることが多いのがその特徴です。
発作が繰り返し起きるせいで、発作が起きそうな場所や発作が起きたら困る場所を避けて過ごすようになります。よくあるのが、電車、自動車、エレベーター、映画館、美容院、そのほか混雑したところ。逆に、誰もいなくて助けてもらえなさそうな場所も当てはまります。これを広場恐怖(空間恐怖)と言い、パニック障害に付随する症状です。
実は、パニック障害という名前が医学的に使われるようになったのは、1980年代以降のことで、比較的新しいものと言えます。それまでは不安神経症とか、心臓神経症とかと、曖昧模糊とした名前で呼ばれていました。明確な診断基準もなく、医療者の間でも精神的な「気の持ちよう」と誤解されることも多かったのが実情です。
アメリカ精神医学会が定めた診断基準(DSM=精神疾患の診断と統計マニュアル)で、「パニック障害」という病名が正式に登場したのは1980年(DSM-III)です。
この時、初めて「パニック発作」や「予期不安」「広場恐怖」といったパニック障害に特有の症状が医学的に体系化され、病気として認識されるようになりました。そして、治療が進化する大きなきっかけとなりました。
パニック障害は古代ギリシャ時代から?

古代ギリシャの時代にも、神殿で急に倒れたり過呼吸になったりする人がいた記録があります。当時は、神の怒りや悪霊によるものとされていました。また、中世ヨーロッパでは「魔女の病」として扱われたこともあります。
そのほかにも、20世紀の初期、グリーンランドに旅行したデンマーク人旅行者たちは、現地のイヌイットのハンターの一部に不思議な症状を呈するものがいたと記録しています。
旅行者たちは、晴れた日の午後、海辺のカヤックの中でアザラシが岸辺に来るのを待っているときに、突然呼吸ができなくなり、胸が高鳴り死んでしまいそうな恐怖感に襲われたハンターを目撃したそうです。
このような症状を来したハンターは、その恐怖感から二度と狩猟に行こうとしませんでした。さらにその中には、イグルー(イヌイットの仮設住居)に閉じこもって外出できなくなった者もいたとされています。このような症状は当時「カヤック不安」と呼ばれました。
つまり、パニック障害のような症状は、昔から人類に存在しており、人種や民族特有のものでもなく、近現代に特有の病気でもない、ということがわかります。ただ、科学的に理解されるまでに時間がかかったのです。
パニック障害は「心の弱さ」ではありません

現在では、脳の働きや神経伝達物質(セロトニンなど)の研究が進み、「パニック障害は誰にでも起こりうる脳の誤作動による病気」として、理解が広がってきています。そして、治療法も大きく進化しました。薬物療法だけでなく、認知行動療法やリラクゼーションなど患者さんに合った方法が選べる時代になっています。
パニック障害は、心の弱さではありません。昔は理解されず、つらい思いをした人も多くいましたが、今は適切な治療と支援があります。広場恐怖(空間恐怖)のような一見不可思議な行動上の変化があると、なにか心理的に深い問題があるように思えてくるものです。しかし、実際には恐怖条件付け、あるいは条件反射と呼ばれるような「クセ」であり、深層心理まで扱わなくても、薬物療法と認知行動療法のような手法で改善することが多い病気です。
「気の持ちようでは?」「ストレスのせい?」と自分を責めてしまう方も多いですが、パニック障害は「脳の誤作動」による病気です。きちんと治療すれば改善が期待できます。ひとりで抱え込む必要はありません。
どうか、ご自身を責めずに、「治る病気であること」を知っていただければと思います。
パニック障害の主な症状(パニック発作の例)
- 突然の動悸や胸の痛み
- 息苦しさ、過呼吸
- めまいやふらつき
- 手足のしびれや震え
- 「このまま死ぬのでは」と思うほどの強い不安
- 現実感の喪失、意識が遠のく感じ
これらは数分〜30分ほどで治まることが多いですが、何度も繰り返すことで特定の場所を避けたり、ひどくなると外出できなくなったりして、日常生活に支障を来す場合もあります。
パニック障害の治療方法は?―薬・認知行動療法・生活習慣の見直し

パニック障害には、以下のような治療法があります。
- 薬物療法:抗不安薬や抗うつ薬など
- 認知行動療法(CBT):不安の仕組みを理解し、過剰な不安への対処法を身につけます
- 生活習慣の見直し・調整:睡眠や食事、運動も改善の鍵になります
治療は一人ひとりの状態にあわせて行いますので、まずはお気軽にご相談ください。症状があるときは不安も強く、「病院に行くのも怖い」と感じてしまうこともあります。でも、あなたの感じていることには理由があります。そして、それは理解され、対処できるものです。
パニック障害の治療は、「薬によるサポート」+「考え方や行動のトレーニング」を組み合わせて行うことが一般的です。多くの方が、数か月〜1年程度で症状が落ち着いていきます。以下でもう少し詳しく治療方法を見ていきましょう。
薬物療法(薬による治療)
症状のつらさが強い時は、まずは薬を使って発作の頻度や強さをやわらげることを目指します。
- 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など)
→ 発作時の強い不安を抑える。即効性があり、短期間で使用することが多いです。
- 抗うつ薬(SSRIなど)
→ 不安を根本から軽減していく薬。数週間〜数か月かけて効果が出てきます。
※薬は症状に合わせて調整し、副作用や依存のリスクを避けるよう注意して処方します。医師と相談しながら、無理なく進めていきます。
認知行動療法(CBT)
「また発作が起きたらどうしよう」「外に出るのが怖い」というような考え方が、症状を悪化させることがあります。
認知行動療法では、こうした不安の「クセ」を見直し、現実的で安心できる考え方に少しずつ変えていくトレーニングを行います。カウンセラーからのサポートを受けつつ、考え方と行動を変えていく作業となります。
認知行動療法の例には、
- 「発作=死ぬわけではない」と理解する
- 発作が起きても対処できる「安全行動」を身につける
- 徐々に苦手な場面にチャレンジする練習(暴露療法)
などがあります。
生活習慣の見直し・調整
パニック障害の改善には、日々の生活リズムを整えることも大切です。
- 睡眠不足を避ける
- カフェインやアルコールを控える
- 適度な運動(ウォーキングなど)
- 深い呼吸やリラクゼーション法を取り入れる
こうした工夫が、不安を感じやすい脳の状態を落ち着ける助けになります。
おわりに―「少しずつ良くなっていく」を目指しましょう
治療の進み方は人それぞれです。不安障害・パニック障害に苦しんでいる人が「少しずつ良くなっていく」ことを実感できるように、医師やスタッフが伴走します。
あおいメンタルクリニックでは、プライバシーに配慮した環境で、安心してご相談いただけます。「薬だけに頼りたくない」「できるだけ自然に治したい」というご相談も可能です。一緒に症状の改善を目指していきましょう。

